2016年にオープンした「とうふ工房ゆう」は、青梅駅からは歩いて15分ほど、裏宿町という閑静な住宅街にあります。
まるでお豆腐のような、真っ白な建物に入っていくと左手には豆腐、生湯葉、揚げ出し豆腐、がんも...右手にはおからドーナツやさまざまな大豆由来の食品が並びます。
お店のイチオシはなんと言っても「特選絹ごし」と「特選よせとうふ」。
豆腐屋を創業して初めて挑戦した全国豆腐品評会(2017年)でなんと日本一を受賞、しかも2年連続金賞受賞という、ものすごい偉業を成し遂げたお豆腐なのです。
日本一に認められたそのワケは、こだわり抜かれた大豆の品質と常識をはるかに超えた豆乳の濃度。
こちらの豆腐はとにかく大豆の味が濃いんです!
一般的な豆腐はたいてい大豆10%程度ですが、とうふ工房ゆうの豆腐は特選なら17%、ふつうのものでも15%。この濃さでクリーミーな極上のなめらかさに仕上げるのが、とうふ工房ゆうの技術力。
まずはお醤油もかけずにそのままどうぞ。香り豊かな豆の味わいに、きっと驚くはずです。
特選シリーズの原料として使われるのは、新潟県産の”肴豆”と"越後娘"。
肴豆とは、読んで字のごとく酒の肴として食されている大豆のこと。どちらも品種改良されていない在来種であり、甘みと豆の香りの個性が強く、加工してもそれらが失われづらいという特徴があります。
その他の原料大豆も、毎年品質を見極めて一番バランスのとれた国産大豆を選びぬいて使用。
新潟の大豆の生産者のもとまで度々通い、生産者がどれだけの思いで生産されているのかを正面で受け止めながら、最大限に魅力を引き出す豆腐づくりをしています。
実は原料となる大豆は仕入れ後も熟成し続けているんだとか。豆が変化し続けるということは、もちろん豆腐の味も変化していきます。
最も豆の甘みが強いのは2月ごろ。そこからどんどん香りが強くなっていき、年末あたりになると香り高く、まさに大豆を食しているような豆腐に仕上がるそうです。
店主の大久保さんのおすすめは、甘みと香りのバランスがよい夏頃。「ぜひ最も手軽に豆腐の味を感じられる冷奴で食べてほしいですね」と話します。
そしてもうひとつ大きな要を担っているのが「にがり」。とうふ工房ゆうの豆腐はすべて国産の天然にがりを使用しています。それって普通じゃないの?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも実は違うんです!
明治~昭和初期ごろまでは、どこでも豆腐はにがりを使って作られていましたが、戦後あたりから利益率がいい硫酸カルシウム(すまし粉)を使うのが一般的になってきました。現在みなさんがスーパーで手にしている豆腐も多くは人工的に作られたにがりによって製造されています。
天然にがりは、太陽の熱で海水から塩を作る過程で生まれる物質で、現在この方法はほとんど行われていないので、大変貴重な素材です。大豆の味を引き立たせ、ミネラルも豊富なのです。
とうふ工房ゆうで使っているのは伊豆大島産の海水にがり。
大久保さんいわく、味のバランスがよくほのかに甘味もあり、豆の香りを引き立ててくれるのだそう。凝固力が強く、製造する上では扱いが難しいのですが、個性の強い濃い豆乳もうまみを逃さずギュッと固めてくれるのだとか。
こちらも日本一の豆腐を作り出す秘密のひとつです。
そのほかにも、とうふ工房ゆうにはさまざまな大豆製品が並んでいますが、中でも特筆すべきは「まぼろしの青大豆納豆」。
生産しているのは青梅の「菅谷食品」。国産の有機栽培大豆を使用し、昔ながらのせいろ蒸しで納豆を生産しています。実は店主の大久保さんがここの納豆の大ファンだったとか。
とうふ工房ゆうではオープン当初から菅谷食品の納豆を入荷していましたが、ついにコラボが実現!人気の「特選」シリーズと同じ新潟県産肴豆、越後娘を使用した大粒納豆です。こちらも豆の香りをしっかり感じることができ、朝ごはんが特別なものになること間違いなし。
店主の大久保さんは東大和市出身。大久保さんの祖父が卸を中心とした豆腐工場を営んでいたため、豆腐は人並み以上に身近な存在でした。しかし昨今スーパーの安売りの目玉商品となる豆腐は、生産効率と原価を抑えることに注力され、本当の豆腐の味は忘れ去られている現状です。
当時自動車ディーラーに勤めていた大久保さんは、豆本来の味を活かした豆腐を作って、人々に美味しい豆腐を知ってもらいたいと一大決心。そこから3年間の修行を経て青梅に「とうふ工房ゆう」を出店します。
青梅を選んだ理由は単身・核家族が多い都心よりも、地域コミュニティが盛んで、一汁三菜を毎日作る習慣が根強く残っていそうというイメージから。大久保さんはなんと出店だけでなく、家族4人で青梅に移住してきました。
そんな地域密着型のとうふ工房ゆう。今や「食べ物のおいしい青梅」の中核を担ってくれています。
「大豆は生き物」
豆腐製造は豆の特性と気温湿度、そして時間との戦い。
お店は10時開店ですが、豆腐の製造は朝5時から。釜の中で固まっていく豆乳の状態によって、混ぜるにがりなどの量を瞬時に判断していきます。毎日豆の様子が変わるので真剣勝負なのだとか。他に製造スタッフもいますが、このさじ加減は大久保さんにしかできない難しい工程。通常の仕込みよりもなんと3倍の時間をかけて仕込んでいきます。
製造4時間、片付け(機械の清掃)に3時間。かなり体力勝負で、小さな工房では一日に製造できる量も限られています。原料は最高品質ながら、豆腐の価格は利益を出せるギリギリラインで設定。
「豆腐はやっぱりふだんの食卓にのぼるものだからですね、あまりに高くて手に入りにくいものにはしたくない」と大久保さんはいいます。
豆腐づくりにはいくつもの設備が必要で、廃業した豆腐屋さんから中古で譲り受けても1つ100万円前後、初期費用はかなりかかりました。工房が出来上がっても、東大和と青梅を往復しながら研究の日々を繰り返し、黄金レシピにたどり着くまでに1年以上もの時間がかかったのだとか。
話を聞けば聞くほどハードルの高い豆腐業界へ、あえて挑んだ大久保さんに、どれほどの熱量があったのかをうかがい知ります。
「好きでなければ続けられない仕事ですよね。でも豆腐作りは奥が深くてめちゃめちゃ面白いんですよ。」
そんなお店の評判はすでにご近所・近隣地域に定着し、特選とうふから売り切れていきます。平日でもお昼すぎにはないときもあるので、購入したい場合は電話で取り置きしてもらうのが確実です。
職人さんが精をつくした最高級のものを、ふだんの食卓に。
価格競争においやられてしまっている豆腐の本当の姿をよみがえらせた、青梅の新しい逸品です。
とくに開店直後のできたての味わいを、ぜひ1度体験ください。
※駐車場は、店舗から100mほど青梅駅よりの熊野神社の隣にあります。
Menu | |
木綿 | ¥260 |
絹ごし | ¥260 |
特選絹ごし | ¥450 |
特選よせ豆腐 | ¥430 |
生揚げ | ¥290 |
ゆり根がんも | ¥180 |
生おから(350g) | ¥120 |
特選豆乳 | ¥320 |
成分無調整 濃い豆乳 | ¥220 |
豆乳パウンドケーキ | ¥800 |
しょうゆ・ポン酢(青梅産大豆使用) | 各¥600 |
※遠方の方や、贈り物には「東京いいもの青梅」でのお取り寄せがおすすめです!
とうふ工房ゆう
電話: 0428-84-2470
住所: 〒198-0088 東京都青梅市裏宿町570-7
営業時間:10:00~18:00
定休日: 日曜日、第4月曜日
駐車場: 2台
最寄駅: JR青梅線 青梅駅から徒歩15分
WEB: http://toufuyuu.com/
執筆・撮影:たなかもみこ
福生生まれ、青梅育ち。フリーライターとして西の風新聞さんやWEBマガジンなどで執筆しています。
もっぱらインドア派ですが、取材を通して地元・青梅の魅力を改めて感じています。アイコンは青梅で拾った実家の愛猫です。