INDEX
東京から西へ電車で1時間。
JR青梅線から北へ、ひと山もふた山も越えた、青梅の北端にひろがる里山エリア・成木地区。
緑深い山あいにぽつぽつと点在する民家の中に、ひときわ存在感のある、築130年以上の立派なお屋敷があります。
ここは江戸時代からこの地で林業を営む、中島林業さんのお宅。
江戸時代には木材の需要が高まって、この辺りでは林業を生業とする家が何軒もあったとか。
しかし昭和の終わりごろ林業家は全国的にも激減し、ここ成木でも林業を営む家は激減し、中島林業さんも約10年前までは存続の危機にあったそうです。
このまま林業家がいなくなる日本の未来に危機感を抱いた、跡取り息子の中島大輔さんが、サラリーマンから家業の林業を受け継ぐことを決意。
木を伐る仕事のほかに、山や森を守ることがなぜ大事なのか、学校や森の中で伝える活動を進めています。
この中島さんちを拠点とした森林保全活動に今回やってきたのは、青梅市内に本社をかまえる(株)やまびこの社員の皆さん。
(株)やまびこは、林業には欠かせないチェーンソー製造の国内トップを誇る、青梅市屈指の大企業です!
農機具製造など国内以上に海外での業績も高いグローバル企業で、青梅市の末広町に本社があります。
(株)やまびこでは、10年ほど前からCSR活動(企業の社会的責任)として、青梅の山々で森林保全活動など、地域貢献を続けているのだとか。
「みらい委員会」という社内横断的に委員を集めた組織があり、企業として未来のために何ができるかを、所属課の壁を超えて考えています。
その活動の一つとして、青梅市内での森林体験学習を毎年実施。
今年も青梅本社とはるばる横須賀事業所から、各部署合わせて35名、社員研修としてやってきました!
昔はここで製材していたという製材所跡には、大木を縦に割った立派な一枚板の長テーブルが!
ここでまず座学の時間です。
・林業のしごと
・なぜ林業家が激減したのか
・住宅建築用の木材に、国産材がほとんど使われない理由
・健康な森とは、不健康な森とは?
・森の知られざる大事な役割
などなど、「身近な森を活用する会」の中島さんと谷村さんお2人が、軽妙なトークとスライドで分かりやすく解説!
林業というのは苗木を植えたり、伐ったりするだけではなく、その他さまざまな作業があること、林業家の現状、日本の森林事情などをしっかり学びます。
そしていよいよ林業体験へ。
ヘルメットと手のこを腰に装着して、中島さんちの裏山から出発です。
中島さんが管理する山への入り口、
山道(森林作業道)が始まるところで谷村さんが立ち止まると
「この道をつくることから、実は木こりさんの仕事が始まってるんです」と説明がありました。
なかなかの急坂に息が上がりそうになりながらも、一緒に歩いていたガイドさんが
「道の途中にあるこの仕切りはね、雨が降ったときに、雨水が道に流れ落ちないようにあるんですよ。これがないと、道がどんどん削れていっちゃいます。」
「あの木はなんで白いのか、分かりますか?」
「上を見てみると分かりますよ、葉っぱがついていない。もうあれは枯れてしまっているんですね」
などなど、何気ない風景から教えてくれるお話がまた面白い!
ただ歩くだけでは見逃してしまいそうなことを、帯同するガイドさん達が教えてくれます。
そして山道の途中に突然現れた、平坦な広場。ここは昔、人が住んでいた住居跡だそうです。
「なぜこんな山の中にわざわざ住んでいたと思いますか?」と谷村さんから投げかけます。
「それはここが当時一番便利だったから。煮炊きに使う薪もすぐ手に入るし、キレイな湧き水もあった。山菜だったり木の実もあった。暮らしに必要なものがほとんど揃っていたんです」
ひと昔前(昭和30年代くらいまで)の日本人は、暮らしが山と共にあったことを実感する場所でした。
山道を20分ほど、息を切らしながら歩いてようやく到着した、本日の実習会場。
「ここまで来るのに大変だったと思いますが、僕たちの仕事はここからがスタートです」
今回は「間伐」という、畑しごとでいう「間引き」の作業。
木がたくさんありすぎると、葉っぱが密集してしまい、地面に光が届かず、草が生えない。
「そうするとあんな風に土が流れていきやすい。根っこが浮き出ていますね。ああいうところは、土砂くずれがおきやすいんです。」
たしかにこの辺りは草があまり生えておらず、地面がむき出しになっています。
こうした太陽光が入らない「暗い森」に「間伐」が必要である、とさきほどの座学で学んだことが目の前にあるので納得です!
そして今回、間引く樹をどれにするか、「選木」という作業を、参加者みずから考えてもらい、理由も話してもらいます。
周りを見渡すと、太い木、細い木といろいろあるのですが…
参加者の意見を聞きながら、中島さんが解説します。
「太さが違うこれらの樹は年齢が違うと思います?」
「実はみんな同じ時期に植えられた同級生なんです!」
おんなじ時期に植えても、数十年後こんなに太さに違いが出る。
たとえば、なぜこの樹は周りと比べてこんなに細いのか?
上をみると、あまり葉っぱもついていないですね。周りの樹々の葉っぱが密集していて、光合成がしにくく、成長が追いつかない。
「元気な樹には、害虫が付きづらいんですよ。」
周りは太い木が多く、成長競争に負けたこの樹はゆくゆく、さきほど見かけたような白い肌の「枯れた木」に。
と考えると、まだ生きている今のうちに伐って活用するのは、良いタイミングですねと中島さんは話します。
さらに、運搬や利用目的の条件、安全面など沢山のポイントも総合して、今日伐る1本を選んでいきます。
運び出せるかどうか重さや容量を知るには、小学生でもわかる算数が活躍!
中島さん曰く
「学校で勉強するほとんどのことは、森の中で学べちゃうんですよね」
「選木」で伐る1本が決まったら
「どちらに伐り倒すか」にも、見極めるための数々のポイントが。
プロは枝のつきかたや周りの環境から、”樹の重心”を読みときます。
安全に倒すためにロープをかける時にも、ロープの結び方、滑車を使った力点のずらし方など、林業の極意があちこちに。
「1本の樹を伐るだけで、こんなに多くのことを考えているんですね!」と参加者から驚きの声がもれます。
やまびこ社員さんの中には、チェーンソーの安全講習を受けた社員さんが数名いるため、実際に【伐倒】に挑戦!
※チェーンソーはしかるべき講習を受けたひとしか、扱うことができません。
まず倒したい方向に切れ目をいれる「受け口」
そして受け口の逆から切れ目をいれるのが「追い口」
周りの樹を傷つけないように、倒したい方向はかなりピンポイント。その角度を狙って切れ目をいれるのはなかなか至難のワザです。
ここまで伐ったら、残りの参加者でロープをさあ引っ張る!
めきめきめき…という音を立てて、20m以上はありそうな檜が倒れていく迫力に、思わず歓声があがります!
伐り倒したばかりの断面、切り株を見てみて、とガイドさんが年輪を指さします。
「この線が1年を表しているんだけど、白っぽい部分が夏で、濃い部分が冬ですね。夏にぐーんと伸びているのが分かるでしょ。
あと中心あたりは幅が広いよね、これは最初10年すくすく育ったってこと。幅が狭くなっている部分は、この時期から成長が止まっているってことが分かるんだよね。」
作業ひとつひとつに、驚くほど多くの職人の知恵が詰め込まれていた林業体験。
身近なようで全く知らなかった樹や森のこと、全身でたっぷり学んでいく時間でした。
やまびこの社員さん達にとっては、職人さん達が現場でどのように自社製品を扱うのかを目の当たりにし
「実際にチェーンソーを使う方のお話を直接聞けたことがよかったです!」という声もありました。
中島さんちの拠点へ歩いて戻り、昼食を済ませたあと、伐ったばかりの樹でベンチを制作します。
ベンチの土台パーツ用に、手のこで丸太伐り体験。
樹の皮を、竹へらを使って削いでいくと、ピーナッツの薄皮のような赤い膜の下に、つるんとした白い木肌!
伐ったばかりの樹は、驚くほどみずみずしい!さっきまで生きて水を全身に運んでいた証拠です。
コツさえつかめば、面白いように綺麗に皮がむける!!
誰もが思わず夢中になってしまう作業です。特に夏季・梅雨時期は水分を多く含んでいるので、一番むきやすいのだとか。
「むいたばかりの皮の内側の水分、ちょっとなめてみて。」
ええ!?とびっくりしますが、おそるおそるなめてみると、ちょっと甘い!
そして樹皮を押してみるとふかふか!弾力があるんです。
樹の概念がくつがえる体験です。
こうした1時間ほどの作業で立派な美しい白木のベンチが完成!これは中島さんちの体験学習の森に設置して、休憩場所として活かされるそうです。
最後にグループワークで今日一日の学びを出し合い、それぞれ発表します。
チェーンソーを製造する企業に勤める皆さんですが、林業についてほとんどよく知らなかった、という方が多かったようです。
「想像以上に安全面に気を配っていたことに、危険と隣り合わせの作業と改めて感じた」
「まず山奥の作業場にたどり着くまで、急坂・ぬかるみなど大変な行程であることに驚いた」
「1本切り倒すだけでたくさんの知恵が詰まっていた」
「樹を伐るだけでなく、運び出すこと、道の整備も重要だと知った」
「ふだんの仕事とは全く異なるすがすがしい環境で、自然の中でリフレッシュ効果を感じた」
道を自ら整備しなくてはいけない、ということも初めて知ったので、道づくりのための機械も開発してみたい!という声もありました。
プライベートでも森林ボランティアに関わっていきたい!という社員さんも。
なかでも
「森は人が管理することで、土壌が守られ私達の暮らしが守られていることを知りました。やまびこの企業理念【人と自然と未来をつなぐ】ということを、今日の体験で身をもって感じることができました」
と語られた社員さんのお話が、印象に残りました。
今回の研修を企画した「みらい委員会」の責任者長谷川さんは
「やまびことして、青梅市の森林保全のために何ができるのかを考えていきたい第一歩としての今日の体験でした。
企業として、また個人として、できることはそれぞれ違うけれど、わたしたちがこれからどう関わっていくか、今日の活動をきっかけに一人ひとり考えていただき、今後につなげていきたい」
と話されました。
最後に中島さんも
「ぜひ次回は皆さんからこんな活動はどう?というアイデアを出していただいたり、どうやったら人と森がつながって、楽しく多くの人が森に関われるか、ぜひ一緒に考えていただけたらありがたい」と話しました。
青梅の森林率は63%。
そのうち市が所有しているのはたったの2%程度、あとはほとんど民間所有の私有林で、長年放置されている森が年々増えているのだとか。
そんな中、地元の企業の皆さんが、こんなに真剣に、これまでも、これからも青梅の森林の未来のために考えて活動してくださっていることが、ありがたいなと感じました。
企業と市民とがうまく関わり合いながら、みんなで青梅の身近な森を守る活動を拡大していければと願うばかりです。
株式会社やまびこ
チェーンソーをはじめとする小型屋外作業機械、農業用管理機械、一般産業用機械等の製造・販売。特に海外の販路が大きいグローバル企業(国内6社、海外8社)。"人と自然と未来をつなぐ"を掲げ、世界の自然環境と美しい未来をつくる企業を目指す。
本社:東京都青梅市末広町1-7-2
https://www.yamabiko-corp.co.jp/
身近な森を活用する会
東京都青梅市の森林を活動拠点とした、森林保全及び森林環境教育団体。NPO法人青梅林業研究グループのメンバーを中心とした林業家・山主・建築家・環境教育NPO・子育てNPO・幼稚園園長・教師・森林ボランティア・研究者・理学療法士・アロマセラピスト・お父さん・お母さん・学生・アクティブシニア等、様々な方々が在籍、一人ひとり自分ができることで活動に貢献しています。
https://www.facebook.com/groups/chikamori/
撮影:川田航大
青梅市職員兼フリーカメラマン。
6年前、広報係への配属を機にカメラに興味を持ち、現在では、星景写真からポートレートまで撮れるフリーカメラマンとしても活躍中。フォトコンでの受賞歴も多数あり。
@blueplum55
執筆・撮影:西村純子
OMEGOCOTI代表 結婚・出産をきっかけに地元青梅に戻ってきた一児の母。青梅で子育てをする中で、地域の中の情報の滞りを痛感、地域のためのWEBサイトの必要性を感じ、未経験ながらOMEGOCOTIを立ち上げる。自宅での本業と子育てのかたわらいまだに手探りで運営中。
この街の中で、新しい出会いがたくさん生まれるように、きちんと"伝わる"情報発信を目指しています!