青梅市内のマルシェやイベントに出店したり、市の給食にもヤナガワファームの野菜が使われているとのこと。
2019年3月には青梅駅近くのカフェころん+ぼくらのひみつ基地内に専用直売所ができ、旬の野菜をここで購入することができます。
柳川さんは青梅が地元ですが、実家は町工場。農家出身ではありません。
学生時代に社会学部で環境問題を学び、「循環型社会」の大切さを学びました。そしてたまたま出会った農村社会学という本から、農業から環境問題にアプローチできるのではないかと考えるようになったといいます。これをきっかけに、人生をかけて環境問題に取り組んでいこうと、有機農家になることを決心します。
卒業後は大手有機農業法人に就職し、全国各地の農場で有機野菜の生産から酪農・畜産・養鶏・乳製品加工を経験し、5年後に青梅で独立しました。
有機農法とは
自然が本来持っている多様な生態系の機能を活かした、自然のしくみに逆らわない農業であり、農産物の生育環境を健全に保つことを重視しながら生産する農業。(農水省HP参照)
具体的に、大きな違いは「肥料」です。
一般的な慣行農法では「化学肥料」を使い、有機農法では「堆肥」を使います。「堆肥」とは微生物の力で家畜の糞や生ごみなどを完全に分解した肥料のこと。
有機農法とは、その土地本来の循環機能を高めながら「環境にやさしく」農作物を育てる方法なのです。
日本ではつい昭和のはじめまで、「堆肥」を中心とした農業が中心でした。しかし戦後の高度経済成長にともない、安価で手軽な化学肥料を使った慣行農業が急速に拡がり、いまでは99%以上を占めています。
以前から化学的に合成された肥料や、農薬を不安に思う声はありました。しかし農家人口が激減している現代では、安価で作業効率があがる化学肥料なくしては、国内で野菜を安定供給することは難しい現実があります。
「今スーパーに並んでいる野菜の多くは国産ですが、そのほとんどが化学肥料で作られていて、実はその化学肥料のほぼ100%が輸入品なんです。
化学肥料をつくるためには高温処理が必要なため、熱エネルギー(化石燃料)がかなり使われていて、さらに原料の一部は鉱物(リン酸・カリウム)であり、あと200年で採掘しきってしまうといわれています。
現代の農業は、このままずっと未来へ続けていけるものではないんですよ」と柳川さんはいまの農業事情を危惧します。
現在、日本の有機農業の比率はわずかに0.5%(有機JAS非認証含め)。
有機農家数は緩やかに増えていますが、イタリアは14.5%、ドイツ7.5%(資料2016 年FiBL&IFOAM)といった有機先進国に対し、かなり遅れをとっています。
そもそも農地の少ない東京では新規就農自体が簡単なことではなく、農家出身でもない人が農業を始めたのは、ここ青梅でも柳川さんが初めてだったそうです。地方とくらべて農地の確保が複雑で難しく、倉庫や作業場などの家賃が高いなどが理由です。
しかし柳川さんが地元にこだわり、東京の青梅で有機農業を始めたのは、「都市型循環社会」を実現したいから。
循環型社会とは、化石燃料をなるべく使わず、できるだけ環境に負担をかけない社会のことです。
人口の多い都市において、大量に出る生ごみを資源として生かして循環させる。「土から生まれたモノは土に還る」という、本来であればあたりまえであるはずの社会にしたいという壮大な夢のために、柳川さんは少しずつ前進しています。
柳川さんは地域の中での循環を目指して、家具職人バトラーさんの木くず、とうふ屋ゆうさんのおから、酒造会社の麦芽かす、入間の米ぬかなど、地元から出る有機物を集め堆肥にして使っています。
土の中で微生物が活動し、冬でも堆肥の中は50℃もあるのだとか。
「一度、撹拌してみましょうか」と柳川さんがショベルカーで堆肥を持ち上げただけで、もうもうと発酵の煙が。長い時間をかけて育まれる、微生物たちのチカラです。
“環境や生態系に負担のない”農法を証明するのが有機JAS認定であり、そもそも人体への安全安心・健康を保証する制度ではないのですが、丁寧な土づくりから生まれる野菜たちは、野菜本来の旨みや甘みが際立つと柳川さんはいいます。
ヤナガワファームの有機ニンジンを使った100%生ジュースが、マルシェなどで販売されていますが驚くほどの濃厚な甘みです。
人参が苦手な子どもたちも、ごくごく飲んでいました。
柳川さんが就農して以降、青梅でもぞくぞくと新規就農者が増えてきています。もともと青梅は都内最大規模の農地があり、非常に恵まれた土壌と都心からの圧倒的なアクセスを兼ね備えるという、類まれな立地でもあるのです。
柳川さんは2016年に(株)東京有機農家を立ち上げ、大手食品卸や総菜工場、学校給食など有機野菜の取引先を拡げています。農業研修生も受け入れ、独立後の受け皿となるように体制を整え、次世代農業の人材を育てることにも力を注いでいます。
有機農業を続けてきて、柳川さんが感じているのは「農家1人の力だけでは何も変えられない」ということ。
循環型社会を実現するには、暮らしているひとたち全体が意識をもち、実行していく必要があります。
そもそも農業は、天候に大きく振り回されるなど経営が難しい仕事。さらに有機農業ともなると、買えば済んでしまう肥料を原料から集めて時間をかけて手作りする、といった手間も倍増します。
しかし未来のこどもたちのために目をそらしてはいけないことだと、これからも真正面から向きあう柳川さんの覚悟を感じました。
有機農法とは、持続可能な社会のためのひとつの方法で「命の循環そのもの」だと柳川さんはいいます。
もしスーパーやJAの売り場で有機野菜を見かけたら、未来の地球のために取り組む農家さんたちを思い出してください。有機野菜を購入することは、未来の地球のための取組みに私も参加します!ということと同じ。
ひとりひとりの意識が、未来をつくっていくことを感じました。
柳川さんの野菜は、こちらで買えます。
主に、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、ブロッコリー、キャベツなどを生産。直売所では、季節に応じた野菜が並びます。
◆東京有機野菜直売所(ぼくらのひみつ基地内:下記住所)
◆東京いいもの青梅(ネット販売:ニンジン11月~2月限定)
ヤナガワファーム/(株)東京有機野菜
住所: 青梅市本町117-12-831
最寄駅: 青梅駅から徒歩2分
WEB: http://yuuki-nouka.tokyo/